中国における、自動運転技術の進化は著しく、テレビニュースやSNS、インターネット内でも「自動運転」に関するトピックスが増えてきています。
以前にも、当サイトで中国の大手検索エンジンの百度(バイドゥ)による、中国初の自動運転タクシーについて取り上げたが、それから3年経った2023年、百度に限らず様々な開発企業が頭角を現し、正に「自動運転タクシー戦国時代」となりつつあります。
自動運転タクシーの開発が最も加熱しているのは、間違いなく「中国」であり、各社が現在進行系で、サービスの浸透やエリア拡大に向けて向上させています。
今回は、中国における自動運転タクシーの、各社の進捗についてお話します。
【楽天車検】中国での自動運転タクシーに関する、各社の開発進捗状況について
自動運転技術を用いたサービスの代表格となっている自動運転タクシーは、アメリカのWaymoが2018年にサービスインして以来、全世界で開発の熱が広がっているが、最も加熱しているのが中国で、各社がこぞって自動運転タクシーの開発を行っています。
百度(バイドゥ)
以前にも当サイトで自動運転タクシーに関する記事を出しましたが、その時にも取り上げたのが百度社で、オープンソフトウェアプラットフォームを活用した「Project Apollo=アポロ計画」のもと、国における自動運転開発のけん引役を担っています。
北京では、2018年6月に公道走行ライセンスを取得し、2020年8月に一般ユーザーを対象とした自動運転タクシーサービスを開始しています。
その後、セーフティドライバー不在の無人による自動運転車の公道実証許可も受け、2021年5月には首鋼園区で有料サービスにも着手しています。
2022年7月には、経済技術開発区でドライバーレスによる有料サービスの試験運用を開始すると北京市が発表しており、百度社とPony.ai社がそれぞれ実証に臨むとされています。
この他、湖南省長沙市で2019年6月に公道走行ライセンスを取得し同年9月にサービス実証を開始するなど、2022年7月までに公表されているだけで上海、広州、重慶、滄州、深センの7都市で自動運転タクシーを展開している。
最近では、2022年8月に重慶市と武漢市から許可を取得し、両市で無人の自動運転タクシーサービスを開始することも発表され、すでに試験営業が開始されています。
車内にはセーフティドライバーなども乗っておらず、タッチパネルで行き先を指定すると、あとは無人で目的地まで連れていってくれる流れだ。
ちなみに自動運転タクシーはリアルタイムで管制センターから監視されているので、トラブルなどにもすぐに対応できるようにしている。
百度社は2030年までにサービスエリアを100都市まで拡大させる目標を掲げており、今後も走行環境が整ったエリアで順次サービスインしていくものと考えられる。
また、同社はレベル4車両の生産コストを25万元(約500万円)に抑えることに成功したことも発表していて、低コストでの運用が実現できているので、今後の拡大に向けても大きな進歩となっている。
Pony.ai
2016年に設立されたPony.ai社は2018年2月、広州市南沙で自動運転タクシーの走行実証に着手し、一般利用者を対象に約30平方キロメートルのエリアでサービスを開始し、同年7月までに1,000回以上のライドを提供したといわれています。
同年末には、自動運転タクシー向けのソフトウェア「PonyPilot」を発表し、広州で自社の社員をはじめ一部住民も乗車可能なパイロットプログラムを開始しました。
2022年4月には、広州南沙で自動運転企業として初めてタクシー企業として認定を受け、800平方キロメートルに及ぶエリアで自動運転車を活用した有料サービスに着手すると発表しましたが、これは広州政府が従来のタクシーや配車プラットフォームと同様に自動運転サービスを正式に承認した格好になります。
同月には、GAC(広州汽車)とのパートナーシップのもと、GACの配車プラットフォーム「Ontime」上で有料サービスを開始することも発表しています。
一方、北京では2018年6月に公道走行を可能にするT3ライセンスを百度社とともに取得し、北京市が用意したテストコースで5,000キロ以上を走行し、39項目のテスト基準を10日間でクリアしたとしています。
同市では、2020年5月に乗客を乗せることができるライセンスを取得したほか、2021年10月にドライバーレスの無人走行を可能にする許可も得ています。
市内の約20平方キロメートルに及ぶエリアで公道実証を実施することが認められていると言い、同年11月には、セーフティドライバー付きの自動運転タクシーで有料サービスも開始しています。
その後、2022年4月にドライバーレスでサービスを提供する許可を受け、運転席無人(助手席にオペレーターが同乗)のサービスも実施していて、同年7月には、この運転席無人車両による有料サービス展開も可能になったようだ。
この他、Pony.aiは上海や深センでも2021年中に走行ライセンスを取得し、公道実証やサービス実証に着手しています。
協業関係では、GACのほかトヨタやヒョンデ、FAW(第一汽車)などともパートナーシップを結んでいて、2022年1月には、トヨタのシエナAutono-MaaS車両に自動運転システムを統合し、公道実証後2023年にも自動運転タクシーサービスに導入していく方針が明かされています。
AutoX
2016年設立されたAutoX社は、北京、上海、深セン、広州で自動運転タクシーサービスを提供しています。
本拠地となる深センでは2017年に同市政府と戦略的提携を交わし、翌2018年に実証に着手していて、2019年初頭に2地点間を結ぶ自動運転サービス「xUrban」を実現したほか、同市から正式な公道走行ライセンスを取得しています。
同年12月にはセーフティドライバー不在の無人走行ライセンスを取得し、ドライバーレス走行の実証を本格化させました。
翌2021年1月には無人タクシー用のオペレーティングセンターを建設し、ドライバーレス自動運転タクシーのサービスを開始しています。
上海では、2019年8月に同市嘉定区と戦略的提携を交わし、65平方キロに及ぶ自動運転モデル地区を構築し、2020年にも100台規模のロボタクシーを試験運営する計画を発表しています。
フリートの規模は不明だが、2020年に一般利用者を対象としたサービスを開始していて、北京でも、上海同様モデル地区で100台規模のロボタクシー運営を予定しています。
広州では、2019年5月に公道走行ライセンスを取得し、同市や東風汽車のモビリティサービス会社などとのパートナーシップのもと、大規模商用ビジネスモデルの構築を検討していくこととしています。
この他、粤港澳大湾区(広東省、香港、マカオ都市圏エリア)や武漢などでも公道走行ライセンスを取得しているようです。
協業関係では、上海汽車や東風汽車から出資を受けているほか、EVメーカーのBYDとも戦略的提携を交わしていて、2021年4月には、ホンダの中国法人本田技研科技とも自動運転技術の開発に向けパートナーシップを結んでいます。
同社の発表によると、自動運転フリートは1,000台超に達しており、世界最大級の規模を誇ることで、注目を浴びています。
Momenta
2016年に設立されたMomenta社は2018年10月に上海市からレベル4自動運転車の公道走行ライセンスを取得し、実証を本格化させました。
2020年3月には高精度3次元地図の作製・更新に向けトヨタと戦略的提携を交わしたと発表し、トヨタが開発を進めるマッピングプラットフォーム「AMP」向けにデータを提供し、商用化を促進する狙いとなっている。
2021年3月には、資金調達CラウンドでトヨタやSAIC(上海汽車)、ボッシュなどから総額5億ドル(約550億円)を調達したことも発表しています。
同ラウンドには、最終的に米GMや独メルセデス・ベンツ、テンセントなども参加しています。
自動運転タクシー関連では、江蘇省蘇州市の蘇州相城高速鉄道新都市と2018年にパートナーシップを結んで実証を重ね、2020年10月に自動運転タクシー「MomentaGO」のリリースを発表していて、さらに2022年にはドライバーレスのサービスに着手する計画となっています。
SAICとのパートナーシップも順調となっていて、SAICのモビリティサービス企業SAIC Mobilityは2021年12月、Momentaの自動運転技術「Flywheel L4」を搭載したロボタクシー20台を上海に導入し、同月末には蘇州でもサービス提供を開始しました。
2022年6月までにフリートは計60台規模となっているようで、顧客アンケートによると98%がサービスに満足しており、80%が複数回乗車していると言う結果が出ています。
Momentaはこの他にも、EV(電気自動車)大手BYDと自動運転開発に向けた合弁「DiPi Intelligent Mobility」の設立を2021年12月に発表していて、同社の攻勢はまだまだ続きそうである。
WeRide
2017年に設立されたWeRide社は、グローバル本社を構える広州を拠点に自動運転タクシーサービスを展開しています。
同社は広州の生物島で2018年に長期実証に着手し、2019年11月に144平方キロのエリアをカバーする自動運転タクシーのトライアルサービスを開始しました。
最初の約1カ月で8,396件の注文を受け、総走行距離は4万1,140キロ、事故は0件でした。
2020年6月には、アリババとの提携のもと同社の配車モバイルアプリ「Amap(AutoNavi)」を通じて自動運転タクシーを広く配車可能にしました。
同年7月には、広州の一部道路で遠隔監視・操作による公道実証の許可を受け、完全無人化に向け5Gやコネクテッド技術を駆使した取り組みに着手しています。
2021年1月には、走行エリアを広州市海珠区の道路に拡大する承認を得たと発表した。
セーフティドライバーの有無に関わらず自動運転実証が可能としています。
自動運転タクシーに関しては今のところ広州が中心だが、同社は自動運転バスや物流用途の自動運転バン、自動運転清掃車などの開発も進めており、運行地域は鄭州や南京、武漢、安慶などにも及んでいて、今後、自動運転タクシーサービスも拡大していく可能性が高いと予想されます。
協業関係では、ルノー・日産・三菱アライアンスやGAC(広州汽車)などとパートナーシップを結んでいて、GACからは戦略的投資を受け、今後数年間で数万台のロボタクシーを構築していく計画としています。
Xpeng Motors
新興EVメーカーであるXpeng Motors社も自動運転タクシー分野への参入をほのめかしています。
同社CEOの何小?氏が2021年第3四半期の決算報告の場で「ナビゲーションガイドパイロット(NGP)で達成した進歩は、ロボタクシー技術などのモビリティソリューションを将来的に探求する当社の能力に大きな自信を与える」としています。
各種報道によると、同社は2022年2月までに自動運転開発を手掛ける新会社「Guangzhou Pengxu Autonomous Driving Technology」を設立し、2022年後半にも自動運転タクシー事業に参入する見込みで、広州で試験運用を開始する計画のようだ。
勢いに乗る新興EVメーカーとして「テスラキラー」の異名を持つ同社だが、自動運転開発においてもテスラと競合していくのか、注目されています。
DiDi Autonomous Driving
配車サービス大手のDidi Chuxing社は2016年に自動運転開発部門を設置し、2019年にはDiDi Autonomous Drivingとして分社化するなど自動運転開発・サービス化に熱心な1社である。
2019年に上海政府から走行ライセンスを受け、同市嘉定区でパイロットロボタクシーサービス実施に向け異なる30モデルのレベル4自動運転車を配備すると発表し、その後、2020年5月までに北京や蘇州でも走行ライセンスを取得し、上海では2020年6月にオンデマンドロボタクシーサービスを開始しています。
2021年には、広州の花都区と戦略的パートナーシップを結び、自動運転技術と商用アプリケーションの研究開発を進める計画を明らかにしている。
また、自動運転実証フリートの開発に向けボルボ・カーズとパートナーシップを結んだほか、GAC(広州汽車)グループの子会社GAC Aion New Energy Automobileと自動運転EVの開発と量産に向け提携を交わすなど、大規模フリート化を見越した事業強化を図っています。
ただ、この1年は大きな動きを見せていないのだが、その背景には、中国当局の影響があるとされています。
DiDiは2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場したが、間を置かず中国当局からセキュリティ法に基づく審査が入り、アプリの新規ユーザー登録停止などを余儀なくされました。
その後当局はDiDiに対し上場廃止を求めたと報じられており、実際DiDiは2022年5月の株主総会で米国上場廃止が正式承認されました。
事業の軌道修正を迫られたDiDiだが、今後どのような形で事業展開していくのか、今後の動向を注視したい。
Deeproute.ai
2019年設立のDeeproute.ai社は、自家用車の自動運転化までを見据えた低コストの自動運転ソリューション開発を進めており、現在深センや武漢、杭州などの中核都市で公道実証や試験運用を実施しています。
協業関連では2020年8月、Geely(吉利汽車)グループの配車サービス部門と共同で2022年に杭州で開催予定のアジア競技大会(2023年に延期)で自動運転サービスを提供すると発表しています。
2021年に試乗サービスを実施し、大会期間中には数百台規模まで拡大する計画とされています。
2020年10月には、東風汽車が開始した自動運転パイロットプロジェクトに参加することも発表していて、多くの企業の協力のもと、武漢開発区などを舞台に中国内最大の自動運転フリートを構築する計画で、パイロットプロジェクトでは2022年までに200台以上の車両を配備するという。
配備される車両の約半分は、「東風風神 E70」をベースにDeeproute.aiが自動運転化するとされてます。
自動運転タクシー関連では、2021年7月に深セン中心街の福田区で無料配車サービスの一般公開を開始しました。
20台の自動運転フリートを配備し、運用区間は100近くの駅をカバーする総延長200キロ超に及び、2022年2月までに4万回近くのライドを完了し、96%のユーザーから5つ星評価を獲得しました。
自動運転ソリューション関連では、コストを1万ドル未満に抑えたレベル4システム「DeepRoute-Driver2.0」を2021年12月に発表した。
2~5基のソリッドステートLiDARや8基のカメラ、独自の推論エンジンと統合したコンピューティングプラットフォームなどで構成するソリューションで、最大200メートル先まで検知できます。
大量生産可能な自動車メーカー向けには将来3,000ドルで提供可能になるとしており、ロボタクシーをはじめ、2025年以降には消費者への販売も見据えているようだ。
2020年1月開催のオートモーティブワールドでは、マクニカの協力のもとレベル4のフルスタックソリューションを展示するなど、日本市場を見据えた動きも見せています。
低価格のレベル4ソリューションの世界展開に要注目です。
さいごに
2020年頃までは、百度社がこの分野を牽引していたが、今回紹介した各社も様々な戦略を持ち開発をしていて、さらに今後も新たな開発企業が参入してくる可能性も大きく、既存の企業のみならず、ますます競争が激化することが予想されます。
今のところ、自動運転開発企業同士の競争が主体となっているが、今後は業界を巻き込む形でサービス高度化に向けた取り組みが進んでいくことも予想されます。
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